静かなるボス
若かりし頃、あるベテランピアニストと夜店にデュオで出演していた時のこと。そこはまぁ、放っておいてもいつも客席は満杯。ライブなんてのがまだ珍しい時代だったのかもしれない。でもそれは音楽に興味があるというよりも、雰囲気に興味がある人ばかりに見えた。グランドピアノとヴィブラフォンだからマイクは使っていない。1stsetを終えて客席の賑やかさを通り越したうるささに少々疲れて楽屋でも無口だった。 2ndsetの最初に静かなバラードがプログラムされていた。僕は「あ〜あ、これで休憩時間にしこたま飲んで酔っ払って声が大きくなった客席にまんまと火に油を注ぐような事になりはしまいか」と憂鬱な気分でステージに上がった。 少しだけ反抗してやろうと、普段よりもバラードとしては大きめの音で始めた。ザワザワした中で音を出すほど集中で...静かなるボス
2024/05/07 05:39